アフリカ系祖先をもつ人々の新しいPDリスク因子に関する初めての大規模な発見は、これまであまり研究されてこなかった人口群を含めることの重要性を示しています。
アフリカ系の祖先を持つ人々に特有のパーキンソン病 (PD) の遺伝的リスク因子が初めて発見され、パーキンソン病の分野が新たに開拓されることが期待されます。今、この分野において疾病リスクや病気進行の遺伝的基盤の全体像解明が近づきつつあり、それらの遺伝的発見は、長年あまり研究されておらず、充分な治療を受けられなかった人々に恩恵をもたらすことが期待されます。グローバルパーキンソン病遺伝学プログラム(GP2)は、包括的で共同的な研究モデルを通じて、このような影響力のある発見へつながる道を切り開いています。
すでにこれまで、GBA1遺伝子には、PD発症リスクの増加をもたらすことが知られている変異が存在していました。これらの変異は、北欧およびアシュケナージ系ユダヤ人の祖先を持つ人々に最も高い頻度で見られました。GP2は今日、アフリカ系およびアフリカ系混血の人々に特有の新しいGBA1変異の発見を報告致します。この変異体は、コピーが1つある場合PD発症リスクが1.5倍、変異体の両方のコピーが受け継がれている場合はリスクが3~4倍と大幅に増加します。ナイジェリアのPDコホートでこの変異は一般的ですが、世界の他の地域では信じられないほど希少であるため、これまで発見されませんでした。
GP2とは何ですか?
GP2は、Aligning Science Across Parkinson’s(ASAP)の最初のリソースプログラムとして2019年に開始されました。GP2の目的は、世界中の15万人を超えるボランティアの遺伝子型を解析してPDの遺伝的基礎について理解を深め、その知見を世界的に関連性のあるものにすることです。データ完成時には最大かつ最も多様な祖先からのPDデータとなるでしょう。他の疾患と同様、現在のPDに関する知見はこの疾患に苦しむ人々の多様性を反映していないため、病気に対する理解は不完全です。そのためプログラムの設計は、不足する部分を意図的に埋めようとしています。不完全な知見は、治療の格差だけでなく、医薬品開発、臨床試験の設計や参加にも大きな影響を及ぼします。
このプログラムで期待されるのは、研究のスコープと規模だけではなく、プログラムを現実にするためにGP2が採用した戦略です。アンドリュー・シングルトン博士とコーネリス・ブラウウェンドラート博士が主導し、GP2が発見のエンジン・能力組織として機能し、新たな研究ニーズや課題に迅速かつ効率的に対処するためのスキルセット、ツール、インフラを世界的な研究組織に提供するという実用的な未来図を描きました。GP2には6大陸で55を超える拠点に協力者がおり、それぞれの場所からサンプルが提供されています。過去の遺伝子研究の殆ど(推定範囲86~96%)がヨーロッパ系の人口群で行われてきたことを考えると、これは大規模な事業であると同時に、正しい方向へ進むための重要な一歩です。
実際の主なワークフローは何ですか?コホートを共有する、またはネットワークに専門知識を提供する意思のある有資格研究者であれば誰でもGP2に参加することができます。GP2はその中心組織として機能し、遺伝子データを生成、対応する臨床データを調和させます。遺伝子データは貢献した研究者に戻され、GP2の中核計算ワークスペースにプッシュされます。GP2メンバーであれば誰でもデータ分析を提案し、技術的または計算サポートをリクエストできます。これらの結果は、根拠となるデータとともに他の研究コミュニティと共有されます。
振り返り:これまでの経緯
GP2の最初の2年間は組織の運営と能力開発に焦点を当てました。これまでに59か国から147の既存コホートを結集し、参加者の同意やデータ共有の許可が適切に行われていることを確認し、世界中のさまざまなコミュニティで信頼を構築、そして中核となるワークフローパイプラインを設定しました。重要なのは、GP2運営側の代表者の増加から、低・中所得国(LMIC)や米国における、これまであまり研究されてこなかった人口群への資金集めの取り組みに至るまで、世界的な多様性への取り組みが礎としてあったことです。
昨年GP2は、運用とインフラから、データ生成に焦点を移しました。最初の予備分析の1つはナイジェリア人コホートを対象としました。当時はサンプルサイズが小さく(1000 件近くの事例)、成果への期待が低かったため、バイオインフォマティクスのトレーニングの機会と見なされていました。新しい遺伝的リスク因子を明らかにするための大規模な遺伝子研究の参加者数は、多くの場合数万人から数10万人に上ります。今回の結果で新たなリスク変異特定の可能性が明らかになったため、信頼性を高めるために再度分析を行いました。この発見はその後、BLAAC-PD(黒人・アフリカ系アメリカ人のパーキンソン病との関係)に参加する人々を対象とした独立研究で検証されました。BLAAC-PDはアフリカ系およびアフリカ系混血の祖先を持つ人々対象とした、米国内におけるGP2が支援する活動です。これは、このリスク変異が西アフリカを超えてアフリカの人口全体に拡大していることを示しています。
影響、未解決の課題、新たな夜明け
この発見は、人間の健康増進に向けた基礎知識の追求における包括的な科学への熱心な取り組みが変革をもたらす可能性を強調しています。発見は予想外でしたが、GP2はこのような洞察を得るためのエコシステムとインフラを構築しました。世界全体でアフリカ系祖先を持つ人々の人口は約18%ですが、大規模な遺伝子研究においてアフリカ系祖先を持つ人々が対象に含まれるのは約2%のみです [Sirugo et al., Cell 2019]。また、PDはアフリカ人およびアフリカ系アメリカ人のグループでは罹患が少ないと考えられてきました(Bailey et al, 2020, Okubadejo 2007)が、これらの人口群を含めた研究がほとんど存在せず、矛盾する報告がしばしばあるため、この考え方は物議を醸しています。
私自身、ナイジェリア系祖先を持つ黒人女性として、この発見は非常に共感できるものでした。私自身が遺伝子研究に参加していると感じることがあまりないので、自分のコミュニティと同様の祖先を持つすべての人々にとって実際的な意味を持つこのような発見を目の当たりにすることができて、とてもうれしく思います。遺伝子ベースの精密治療臨床試験がより一般的になるにあたり、このGP2の発見やその他の疾患領域における同様の発見 (例:グループ間の抗がん剤[タモキシフェン]代謝の違いを促進するCYP2D6変異 [Popejoy & Fullerton. Nature 2016]、 アフリカ系アメリカ人を研究に含めることによって促進されるコレステロール標的治療法 [PCSK9阻害剤] の進歩 [Cohen et al., Nat Gen 2005])からも明らかなように、ゲノムワイド関連研究(GWAS)の発見は異なる民族間で再現できない可能性があるため、大規模な遺伝子研究の多様性を拡大することが不可欠です。この発見は、アフリカ系祖先を持つ人々に新たな治療の機会を提供します。
GBA1がPDにどのように寄与するかについては、まだ多くの疑問が残っています。GBA1を対象としたSanofi(Venglustat)による初の臨床試験では、治療グループの成績がプラセボグループよりも悪かったことから、実際の疾患メカニズム機序の理解が不十分であることが示されました。疾患に関する追加のGBA1変異を研究することで、GBA1変異がどのように疾患を引き起こすのかに関する理解を深め、疾患関連経路の治療標的を強化することができます。大切なのは、世界中のさまざまな人口群でこれらの変異を研究し、GBA1標的治療の恩恵を受けられる患者を増やすということです。
GP2が発見エンジンを加速し続けるにつれて臨床試験へのアプローチが変わり、PDの遺伝子構造に関する理解を深める多くの発見が世界中に発現することを期待しています。GP2が構築したエコシステム、能力、培ってきた研究者の連携を振り返る時、包括的なコラボレーションのストーリーがそこにあります。著者の署名欄(ナイジェリアの24の機関を代表する78人の著者で構成)は、GP2チーム、国際パーキンソン病ゲノミクスコンソーシアム(IPDGC)ナイジェリア支部、マイケル・J・フォックス財団、そして23andMeによる共同研究の成果を示すものです。
これからもこのプログラムに注目してください。さらに多くのプログラムが登場します!
(免責:この発見は、パーキンソン病遺伝学の研究にとって重要なマイルストーンですが、この発見が即時に治療に影響するものではありません。このFAQをお読みください。)