昨年9月14日、ブレイクスルー賞財団は、2024年の生命科学ブレイクスルー賞の3人の受賞者として、アンドリュー・シングルトン、トーマス・ガッサー、エレン・シドランスキーを発表しました。「科学のアカデミー賞」として知られるブレークスルー賞は、「インパクトのある科学的発見をした世界で最も優秀な頭脳を表彰する」ものです。
あなたの経歴について教えてください。どのようにしてパーキンソン病・ADRD・認知症の遺伝学研究への道を見つけましたか?
アンディ:私はガーンジー島という小さな島で生まれ育ちました。会計士として失敗し失意の中で一年間を過ごした後、サンダーランド大学で応用生理学を学びました。その間、主に認知症の遺伝学に関する研究室で1年間働いきました。その研究室に戻り、再びアルツハイマー病とレビー体型認知症の遺伝学に関する博士号を取得しました。その後、アメリカに移り、マヨ・クリニックのジョン・ハーディに師事しパーキンソン病の研究をしました。
トム:医学を学び始めた最初の頃から研究の道に進みたいと思っていました。最初は薬理学の学生で、抗がん剤を研究していましたが、臨床研修中に神経学と神経科学への関心が高まりました。パーキンソン病を研究していたヴォルフガング・エルテル氏のグループで、ミュンヘンの神経科研修医として偶然最初の仕事を見つけました。
エレン:父が学術病理学者だったので、私は幼い頃から研究に触れていました。大学では博士課程と医学部で迷っていましたが、医学部でのさまざまなローテーションの中で、医学の臨床的側面に夢中になりました。小児科を選びましたが、研究プロジェクトを行う時間を取りました。最終的に、医学遺伝学のトレーニングを受けるためにNIHに来ました。グルコセレブロシダーゼ遺伝子をクローニングしたばかりのエドワード・ギンズ氏の研究室で働き始めました。まず、ゴーシェ病の多様な患者を研究し、関連する臨床的不均一性の分子的原因の特定に努めました。私が診た患者の中には、ゴーシェ病とパーキンソン病の両方を患う患者さんがいました。それがこの分野に入ったきっかけで、今に至っています。小児科医としてのキャリアでパーキンソン病に取り組むことになるとは夢にも思っていませんでした。
これまでのキャリアの中で、パーキンソン病に対する理解や概念において、あなたが観察した最大の変化は何ですか?この病気についてのご自身の理解や考え方は、時間の経過とともにどう変化しましたか?
アンディ:課題はたくさんあると思います。特に関心を持っているのは、パーキンソン病に見られる差異の根拠を理解することです。なぜ患者によってこんなに進行が違うのかです。
トム:最初の頃は、ドーパミン欠乏症と、この神経伝達物質をどう置換するかばかりを考えていました。今日、ドーパミン欠乏症はさまざまな病理学的プロセスのかなり下流にあることがわかっており、根本の原因となる治療への道を切り開くため、これらのプロセスへの関心が高まっています。
エレン:パーキンソン病の病態生理学については現在さらに多くのことが知られていますが、道のりはまだ長いです。遺伝子の進歩により、リソソームの役割に注目が集まり、さらなる開発のための新しい治療標的が導入されたことを嬉しく思います。ゴーシェ中心のアプローチから、なぜゴーシェ病またはGBA1変異保有者の患者のごく少数がパーキンソン病を発症するのかに注目しています。さらなるリスクや保護をもたらす重要な要因が他にもあるはずです。
パーキンソン病に関する重要な遺伝子を発見したことでブレークスルー賞を受賞されました。この賞はあなたにとってどのような意味がありますか?受賞を知ったとき、どう感じましたか?
アンディ:長い間現実とは思えなかったんですが、、、もちろんとてもうれしいです!他の方もそうかもしれませんが、私は注目されるのが苦手で、時々圧倒されることもありますが、、、でもそれは悪いことではありません!
トム:アンディと同じく、とてもうれしいです!長年にわたり、多くの研究者がパーキンソン病の遺伝学を研究し、素晴らしい成果を出してきたことも実感しています。この賞は、この分野全体に対する表彰だと思います。
エレン:受賞を知ってとても驚きました。私のようにキャリア全てを希少疾患の研究に費やしてきた者にとって、このような受賞は信じられません。初めの頃、グルコセレブロシダーゼの始まりの話を出版してもらうのに苦労しました。この評価が希少疾患研究の価値を裏付けていることを嬉しく思います。希少疾患のある患者さんには、私たちのサポートが必要です。これらの疾患は基礎生物学について多くのことを教えてくれるし、今回もそうであるように、より一般的な疾患について独自の洞察を与えてくれます。
この発見でブレイクスルー賞を受賞した主な遺伝子と関連遺伝子変異について詳しく教えてください。これらの遺伝子や変異について、お気に入りの面白い事実や、もっと多くの人に知ってもらいたいことがありますか?
アンディ:基本的に、これはパーキンソン病の原因としてLRRK2変異が発見されたこと、そしてP.G2019の変異が非常に一般的であることを示すその後の研究に対する認識です。お気に入りの事実は、私たちが本質的に配列決定していた「トランスクリプト」が「DKFZP434H2111」と呼ばれていたことです。その名前は忘れがたいです、、、
トム:いくつかの家系で突然変異を同定した際、脳内の遺伝子発現を調べたところ、黒質での発現がなぜか低いことが判明しました。アンディと彼のチームが同じ遺伝子を同定したと聞くまで、これが本当に正しい遺伝子かどうか多くの疑問がありました。
エレン:私は30年以上にわたり、自分の遺伝子であるGBA1に焦点を当ててきました。すぐ近くに偽遺伝子と呼ばれる非常によく似たコピーがあります。この余分な配列は、第一染色体のこの領域でのゲノム解析を複雑にしています。多くの場合、研究者は2つのシーケンスのバリアントを混同してきました。
2024年の生命科学ブレイクスルー賞を受賞した重要な遺伝子に関する研究に関連して、特に鮮明な思い出はありますか?鍵となった瞬間について教えてください。
アンディ:ニック・ウッド、ジョルディ・ペレス・トゥール、ホセ・フェリックス・マルティ・マッソ、そして私が力を合わせて突然変異を探そうと決めた時の電話など、多くの瞬間を覚えています。2人の素晴らしい大学院生、コロ・パイサン・ルイスとシュシャント・ジャインと一緒に働き、大西洋のこちら側と向こう側で朝夕にシーケンシングの結果を共有できたことは楽しかったです。バスクの家族が遠い親戚であることが理解でき、研究していた重要なインターバルが一気に狭まりました。マーク・クックソンとジョン・ハーディと潜在機能について話したことや、、、良い思い出がたくさんあります。
トム:ジグ・ウゾレックがネブラスカ州で特定した家族の遺伝子を追いかけていたとき、解剖されたこの家族の方々がレビー小体など実際には異なる病状を患っていたりいなかったりしたことが判明し、プロジェクトをほとんど放棄したことを鮮明に覚えています。そのため、同じ家族であっても、人によっては同じ病気にかかっていないのではないかと心配しました。実際、彼らは遺伝的には同じ病気にかかっていても、病状が異なり、これは未解決の難問です。
エレン:ゴーシェ病とパーキンソン病の両方を患う患者を対象とした18人の患者について発表した後、当時MGMの主任神経病理学研究員だった元学生のキャシー・ニューウェルから電話がありました。彼女はパーキンソン病の患者の解剖をしていて、カルテには彼もゴーシェ病にかかっていると書かれていました。彼女は私に解剖のサンプルが欲しいかどうか聞いてきました。もちろん希望しましたが同時に、パーキンソン病のサンプルが他にもないか聞きました。3つのサンプルがドライアイスと共に届きましたが、ラベルを読むことができませんでした。そこで、グルコセレブロシダーゼ活性を測定してDNAを抽出し、2つのパーキンソン病の「コントロール」にGBA1変異があることを確認しました!これはすごい瞬間でした!
パーキンソン病の遺伝学の分野と研究活動は今後どうなると思いますか?
アンディ:グローバルパーキンソン病遺伝学プログラム(GP2)が、その未来に大きく貢献すると思います。世界中の患者や研究者を巻き込んで取り組みを多様化することが重要です。GP2はまた、熟練した研究者を支援し、成長の機会を与えます。GP2はまさに過去20年間の経験の集大成です。やる気のある素晴らしい研究者のグループと一緒に仕事ができれば、大きな成果を生むことができるということを理解することが重要です。
トム:私たちは今、遺伝的に層別化されたパーキンソン病患者を対象とした最初の有望な治療試験を実施していますが、これはまさに私たちの遺伝的発見に基づいています。今でも多くのパーキンソン病患者を診察している神経科医の私にとって、これは非常にエキサイティングなことです!
エレン:遺伝学の研究は、パーキンソン病の病因に関与する新しい経路の認識につながっています。これらは治療薬開発の新たな目標となり、医薬品開発を加速させる可能性があります。
コラボレーションとチームワークは、あなたの仕事や発見にどのように役立ちましたか?
アンディ:あらゆる所で役立ちました。現在、遺伝学は完全に協調的で、私たちが行っているのまさに「チームサイエンス」です。 非常にやりがいがあります!
トム:私たちがパーキンソン病の家族を対象に研究を始めたときとは対照的に、遺伝学は今では非常に協力的な取り組みで、おそらく他の多くの生物医学研究分野よりもそうでしょう。
エレン:遺伝学ではコラボレーションは絶対に不可欠です。NEJMにおけるパーキンソン病におけるGBA1変異に関する国際共同研究が、この知見が広く受け入れられるに至ったのも、そのおかげです。遺伝子改変因子を探し求めている今、私たちは力を合わせて、病気の浸透に影響を与える他の要因を特定する力を得る必要があります。
パーキンソン病の遺伝学の分野とこれらの疾患に関する私たちの理解に関連して、現在の発見、技術、ツール、またはアイデアに特に期待しているものはありますか?
アンディ:ロングリードシーケンシングは、特にDNAのメチル化のオーバーレイでは非常にエキサイティングです。また、トランスクリプトミクスへの応用、さらにプロテオミクスへの応用は、本当にエキサイティングです。
トム:私が神経科に入ったときの一般的な理解は、神経内科医は、自分ではどうすることもできない多くの病気を賢く診断していたというものでした。この状況は劇的に変化し、遺伝学はこの伝統、特に神経変性疾患において大きな役割を果たしてきました。
エレン:私たちは、生物学をよりよく理解し、新薬を同定するために、iPS細胞由来のモデル、ハイスループットシーケンシング、マルチオミックアプローチに焦点を当ててきました。
この分野で成功を収めるために克服しなければならなかった最大の課題は何でしたか?
アンディ:同僚と出会い、つながりを築くことが不可欠です。私はとても内向的です。人と会ったり話したりするのが難しいし、立って人前で話すのも難しいなと感じます。私はいつもこれに取り組まなければなりません。
トム:私にとって最大の課題は、日常の臨床診療と長期的な研究努力のバランスを取ることでした。才能ある同僚の多くは、このバランスを見つけるサポートが必要で、それができるのは優れたチームだけです。
エレン:臨床責任とラボの管理を両立させることが難しいと、私も感じています。また、キャリアの後半で神経変性というまったく新しい分野に参入することも困難でした。
この分野の研究者に何かアドバイスはありますか?
アンディ:好きな人と仕事をしましょう。
トム:、、、そして、進歩が遅くてもあきらめないでください!
エレン:例外を大切にしてください。何か重要なことを教えてくれます。そして、間違えることを恐れないでください。
この分野の研究者として、どのようにライフバランスを保ち、将来に希望を持っていますか?
アンディ:家庭生活を優先すべきだと思います。狂ったように働かなければならない時ももちろんありますが、普段は家にいる時間を確保するために多少自分を優先する必要があります。研究室で働き、論文を書いたりしたことはあまり覚えていませんが、家族と一緒に夕食を食べたり、子供たちに本を読んだりしたことは覚えています。
トム:これも非常に重要なバランスですね!もちろん家族が中心ですが、音楽を演奏したり、私の場合はジャズサックスを演奏したりすることも大いに役立ちます。
エレン:私にとって、4人の子供を育てたのでこれは本当に必要でした。非常に大変だった年もありました。でも私は子育てから多くのことを学びました。特に個人差やさまざまな学習方法について学びました。そして、やっと自分の時間がとれると思ったころに、孫たちが生まれました。彼らは最高のご褒美です!
PDに関連して生きているうちに何が実現されてほしいですか?残っている最大の課題は何ですか?
アンディ:予測と治療が結びついているため、患者は病気にかかっていることに気付く前に治療を受けることができます。
トム: 確かに、遺伝的素因とリスクと実際に病気になるリスクとの関係は非常に複雑です。レジリエンスの要素にもっと焦点を当てる必要があるかもしれません。これまでのところ、それらはほとんど無視されてきました。
エレン:発症前に治療ができたら素晴らしいですね。しかし、病気の進行を大きく変えるような治療法ならどれもそうです。
パーキンソン病の主要な遺伝的リスク因子を発見したことで2024年の生命科学ブレークスルー賞を受賞したトーマス・ガッサー、エレン・シドランスキー、アンドリュー・シングルトンの皆さん、おめでとうございます。